妊活中に「甲状腺の検査を受けたことはありますか?」と医師に聞かれて戸惑った経験はないでしょうか。甲状腺は喉の前面にある小さな臓器ですが、妊娠や妊活との関わりは想像以上に深いものがあります。
甲状腺機能の異常は排卵障害、着床障害、流産リスクの上昇など、妊活のあらゆるステージに影響を及ぼします。しかし、自覚症状が乏しいことも多く、検査をしなければ気づかないまま妊活を続けてしまうケースも珍しくありません。
この記事では、甲状腺が妊活に与える影響、受けるべき検査の種類、異常が見つかった場合の治療について解説します。

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甲状腺の役割と妊活との関係
甲状腺は甲状腺ホルモン(T3・T4)を分泌する臓器です。このホルモンは全身の代謝を調節しており、エネルギー産生、体温調節、心拍数の制御など、体のあらゆる機能に関わっています。
生殖機能においても甲状腺ホルモンは重要な役割を果たしています。具体的には以下のような影響があります。
- 卵胞の成熟と排卵の調整に関与する
- 子宮内膜の発育と着床環境に影響を与える
- 黄体機能の維持に必要
- 妊娠初期の胎児の脳発達に不可欠(胎児は妊娠12週頃まで母体の甲状腺ホルモンに依存する)
つまり、甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、排卵から着床、さらには妊娠維持まで、一連のプロセスに支障をきたす可能性があるのです。
甲状腺機能低下症と妊活
甲状腺機能低下症とは
甲状腺ホルモンの分泌が不十分な状態を指します。原因として最も多いのは「橋本病(慢性甲状腺炎)」で、自己免疫によって甲状腺が攻撃されることでホルモン産生が低下します。
主な症状としては、疲労感、寒がり、体重増加、便秘、肌の乾燥、むくみなどがありますが、軽度の場合は自覚症状がほとんどないこともあります。
妊活への影響
甲状腺機能低下症は妊活に以下のような影響を与えます。
- 月経異常・排卵障害:月経過多や月経周期の延長が見られ、排卵が不規則になることがある
- 着床障害:子宮内膜の質が低下し、着床しにくくなる
- 流産リスクの上昇:特に妊娠初期の流産リスクが高まる
- 黄体機能不全:プロゲステロンの分泌が不十分になりやすい
「潜在性甲状腺機能低下症」(TSHがやや高いがT4は正常範囲内)でも妊活に影響することが知られています。一般的な健康診断では見逃されがちなため、妊活時には必ず甲状腺専用の検査を受けることが重要です。
甲状腺機能亢進症と妊活
甲状腺機能亢進症とは
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態です。代表的な疾患は「バセドウ病」で、自己免疫によって甲状腺が過度に刺激されます。動悸、体重減少、手の震え、暑がり、発汗の増加などの症状が現れます。
妊活への影響
甲状腺機能亢進症も妊活に影響を及ぼします。
- 月経異常:月経量の減少や無月経が見られることがある
- 排卵障害:ホルモンバランスの乱れにより排卵が不規則になる
- 流産・早産のリスク:コントロールされていない亢進症は流産や早産のリスクを高める
- 胎児への影響:母体のTSH受容体抗体が胎盤を通過し、胎児の甲状腺にも影響する可能性がある
バセドウ病がある場合、甲状腺機能が安定してから妊活を開始することが原則です。内服治療で甲状腺ホルモンが正常範囲にコントロールされた後に妊活を始めるのが安全です。

妊活前に受けるべき甲状腺の検査
妊活を始める前、もしくは不妊の原因を調べる段階で、以下の甲状腺関連の検査を受けることが推奨されます。
| 検査項目 | 内容 | 基準値の目安 |
|---|---|---|
| TSH(甲状腺刺激ホルモン) | 甲状腺機能の最も重要な指標 | 妊活時は2.5 mIU/L以下が望ましい |
| FT4(遊離サイロキシン) | 甲状腺ホルモンの量を直接測定 | 0.9〜1.7 ng/dL程度 |
| FT3(遊離トリヨードサイロニン) | 活性型甲状腺ホルモン | 2.3〜4.0 pg/mL程度 |
| 抗TPO抗体 | 橋本病の自己抗体の有無を確認 | 陰性が望ましい |
| 抗TG抗体 | 甲状腺への自己免疫反応を確認 | 陰性が望ましい |
特に注目すべきはTSHの値です。一般的な基準値は0.5〜5.0 mIU/L程度とされていますが、妊活においてはTSHが2.5 mIU/L以下であることが推奨されています。「基準範囲内」でも妊活にとっては最適ではない場合があるため、妊活専門の視点での評価が必要です。
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甲状腺異常が見つかった場合の治療
甲状腺機能低下症の治療
甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)の内服で補充します。服用を始めると数週間でTSHが改善し、排卵や着床の環境が整ってきます。妊娠後も服用を継続し、妊娠中はTSHの管理をさらに厳密に行う必要があります。
甲状腺機能亢進症の治療
抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)の内服が基本です。妊活中〜妊娠初期は胎児への影響を考慮してプロピルチオウラシル(PTU)が選択されることが多いです。甲状腺機能が安定するまでには通常1〜3ヶ月程度かかります。
抗体陽性だがホルモン値は正常な場合
抗TPO抗体が陽性でも甲状腺ホルモンが正常範囲内のことがあります(甲状腺機能正常の橋本病)。この場合でも流産リスクが若干高まるという研究報告があり、低用量のレボチロキシン補充を行うことで流産率が低下したというデータもあります。

甲状腺と妊娠中の管理
妊活中に甲状腺の異常がわかり治療を開始した方は、妊娠後も継続的な管理が必要です。
- 妊娠中はTSHの目標値がトリメスター(妊娠期間の3分割)ごとに異なる
- 甲状腺ホルモン製剤を服用中の方は妊娠判明後に増量が必要になることが多い
- 妊娠初期の4〜6週ごと、安定後は2〜3ヶ月ごとに血液検査でモニタリング
- 産後は甲状腺炎が悪化するケースがあるため、産後も経過観察を継続
甲状腺の管理は内分泌科(甲状腺専門医)と産婦人科の連携が重要です。妊活の段階から両方の専門医にかかっておくと、妊娠後の管理もスムーズに進みます。
まとめ
- 甲状腺機能異常は排卵障害・着床障害・流産リスクの原因になる
- 妊活時のTSHは2.5 mIU/L以下が望ましい
- 潜在性甲状腺機能低下症も妊活に影響するため、専門検査が必要
- 治療は内服薬が中心で、比較的早く改善が見込める
- 妊娠後も継続的なモニタリングが必要
甲状腺の検査は血液検査で簡単に行えます。妊活を始めるタイミングで一度はスクリーニングを受けておきましょう。
甲状腺疾患と妊娠に関する情報は日本産科婦人科学会で確認できます。甲状腺疾患の専門的な情報は日本甲状腺学会のサイトも参考になります。不妊治療と甲状腺の関係については日本生殖医学会(www.jsrm.or.jp・サイト終了)のガイドラインにも記載があります。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスではありません。治療方針については必ず担当医にご相談ください。
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