「射精の感覚はあるのに精液が出ない」「精液の量が極端に少ない」――こうした症状に心当たりがある方は、逆行射精(逆行性射精)の可能性があります。
逆行射精は男性不妊の原因のひとつですが、認知度がまだ低いため、症状に気づいていても相談できていない方が少なくありません。適切な診断と治療を受けることで、妊娠のチャンスを広げられるケースも多いです。この記事では、逆行射精の原因、診断方法、治療法、そして精子回収の方法について詳しく解説します。

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逆行射精(逆行性射精)とは?
逆行射精とは、射精時に精液が尿道から体外に出るのではなく、膀胱側に逆流してしまう状態を指します。射精感(オルガズム)自体はあるものの、精液が出ない、または量が極端に少なくなります。
通常の射精では、膀胱の出口にある内尿道括約筋が収縮して膀胱への逆流を防ぎます。この括約筋の機能が障害されると、精液が膀胱に流れ込んでしまいます。
逆行射精自体は健康上の危険はありませんが、精液が体外に射出されないため、自然妊娠が困難になるという問題があります。妊活を考えていない男性の場合は、特に治療の必要がないケースもあります。
逆行射精の主な原因
糖尿病性神経障害
逆行射精の原因として最も多いのが、糖尿病による末梢神経の障害です。長年の糖尿病により、膀胱頸部の神経が障害されると内尿道括約筋の機能が低下します。血糖コントロールが不良な期間が長いほど、リスクが高まるとされています。
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前立腺・骨盤手術の影響
前立腺肥大症の手術(TURP:経尿道的前立腺切除術)後に逆行射精が起こるケースは多く報告されています。TURPでは膀胱頸部の組織が切除されるため、括約筋の機能が損なわれやすくなります。膀胱がんの手術や大腸がんの手術など、骨盤内の手術でも周囲の神経が損傷される可能性があります。
脊髄損傷・神経障害
脊髄損傷や多発性硬化症などの神経疾患により、射精に関わる神経経路が障害されて逆行射精が起こることがあります。腰椎の手術後に発生するケースもあります。
薬剤の影響
一部の薬剤が逆行射精を引き起こすことがあります。代表的なものとして、以下が挙げられます。
- alpha遮断薬(前立腺肥大症の治療薬:タムスロシン、シロドシンなど)
- 一部の抗うつ薬(SSRI、三環系抗うつ薬など)
- 抗精神病薬
- 降圧薬の一部
薬剤性の場合、薬の変更や中止により改善する可能性があります。ただし、自己判断での中止は禁物で、必ず主治医に相談してください。
先天的な原因
まれですが、先天的に膀胱頸部の構造に問題がある場合もあります。若い男性で他に原因が見つからない場合に検討されます。
逆行射精の主な原因をまとめると以下の通りです。
- 糖尿病性神経障害(最も多い)
- 前立腺手術後(TURP等)
- 骨盤内手術の既往
- 脊髄損傷・神経疾患
- 薬剤の副作用
- 先天的な構造異常(まれ)
逆行射精の診断方法
逆行射精の診断は、比較的シンプルな検査で行われます。
射精後尿検査
最も重要な検査は、射精後の尿に精子が含まれているかどうかを調べる検査です。射精感があった後に排尿し、その尿を顕微鏡で観察します。尿中に多数の精子が認められれば、逆行射精と診断されます。この検査は痛みもなく、短時間で結果がわかります。
精液検査
射精された精液量が異常に少ない(0.5mL未満など)場合に逆行射精が疑われます。WHO基準では正常な精液量は1.4mL以上とされています。精液量が少ないだけでなく、無精液症(精液がまったく出ない)の場合も逆行射精の可能性があります。
その他の検査
原因を特定するために、以下の検査が追加で行われることがあります。
- 血液検査:血糖値やHbA1cの測定(糖尿病の確認)、ホルモン値の測定
- 神経学的検査:神経機能の評価
- 超音波検査:前立腺や膀胱の状態確認
- 膀胱鏡検査:膀胱頸部の構造確認

逆行射精の治療法
薬物療法
逆行射精の治療でまず試みられるのが薬物療法です。膀胱頸部の閉鎖機能を高める薬が使用されます。
- イミプラミン(三環系抗うつ薬):膀胱頸部の交感神経を刺激し、内尿道括約筋の収縮を促します。1日20mg程度から開始し、効果を見ながら調整するのが一般的です。全国調査ではイミプラミン塩酸塩が多く使用されています
- 交感神経作動薬:エフェドリンやプソイドエフェドリンなどが使用されることがあります。膀胱頸部の緊張を高めて逆流を防ぐ目的で処方されます
薬物療法の効果は原因によって異なります。薬剤性の逆行射精の場合は、原因薬剤の変更・中止で改善することが多いです。一方、手術後や重度の神経障害の場合は、薬物療法だけでは改善が難しいケースもあります。
原因薬剤の変更
alpha遮断薬など特定の薬剤が原因の場合は、主治医と相談のうえ、代替薬への変更を検討します。例えばタムスロシンからナフトピジルへの変更など、逆行射精を起こしにくい薬への切り替えが考えられます。
逆行射精の治療で使用されるイミプラミンなどの薬剤には、口渇、便秘、眠気などの副作用が生じることがあります。副作用が気になる場合は、医師に相談して用量の調整や薬の変更を検討してください。
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精子回収の方法
薬物療法で改善しない場合や、急いで妊活を進めたい場合は、精子を回収して生殖補助医療(ART)に用いる方法があります。
膀胱内精子回収法
逆行射精の場合、精子は膀胱内に流れ込んでいるため、射精後に膀胱内から精子を回収する方法があります。具体的な手順は以下の通りです。
- 射精前に膀胱を空にしておく(排尿する)
- 膀胱内の環境を精子に適した状態にするため、あらかじめアルカリ性の培養液を膀胱に注入する場合もある
- 射精後に排尿またはカテーテルで膀胱内容物を回収
- 回収液から精子を分離・洗浄して状態を確認する
- 得られた精子を人工授精(AIH)や体外受精(IVF)に使用
膀胱内の尿は酸性で浸透圧も精子には適していないため、事前処理を行わないと精子のダメージが大きくなります。経験豊富な施設では、射精前に膀胱を洗浄し、精子に優しい培養液を注入してから精子回収を行います。
TESE(精巣精子採取術)
膀胱からの精子回収がうまくいかない場合や、精子の質が十分でない場合は、TESE(精巣精子採取術)が検討されます。精巣から直接精子を採取し、顕微授精(ICSI)に用いる方法です。局所麻酔で行われることが多く、日帰りで受けられる施設もあります。
逆行射精と妊活の進め方
逆行射精が原因で自然妊娠が難しい場合でも、妊娠を諦める必要はありません。以下のステップで妊活を進めることができます。
- まずは泌尿器科で正確な診断を受ける:逆行射精の確定診断と原因の特定が最優先です
- 薬物療法を試みる:原因によっては薬で改善する可能性があります
- 精子回収+人工授精:薬で改善しない場合は、膀胱内からの精子回収と人工授精を検討
- 体外受精・顕微授精:回収精子の質や量に応じて、体外受精やICSIへのステップアップも選択肢です
治療の方針はパートナーの年齢や不妊期間なども考慮して総合的に決定されます。男性側と女性側の検査を並行して進め、最適な治療法を選ぶことが大切です。
検査や治療の用語は初めて聞くものが多く、説明を一度で理解するのは大変です。男性不妊の基礎知識をまとめた本を手元に置いて、二人で読みながら整理している方もいます。

よくある質問(Q&A)
Q. 逆行射精は自分で気づけますか?
A. 射精感はあるのに精液が出ない、または量が極端に少ないと感じたら逆行射精の可能性があります。射精後の尿が白く濁る場合も手がかりになります。
Q. 逆行射精は健康に害がありますか?
A. 逆行射精そのものは身体に害を及ぼしません。膀胱に逆流した精液は尿と一緒に排出されます。ただし、妊活を考えている場合は治療が必要です。
Q. 逆行射精は完治しますか?
A. 原因によります。薬剤性の場合は原因薬剤の変更で改善が見込めます。手術後の神経障害が原因の場合は完治が難しいこともありますが、精子回収法で妊活を進めることは可能です。
Q. 受診するのは何科がよいですか?
A. 泌尿器科、特に男性不妊やリプロダクション(生殖医療)を専門としている施設が望ましいです。妊活中の方は不妊治療専門クリニックでも相談できます。
Q. 逆行射精の検査費用はどのくらいですか?
A. 初診料・精液検査・尿検査合わせて保険適用で数千円程度が目安です。追加の検査が必要な場合は別途費用がかかります。
逆行射精の治療費用の目安
逆行射精の治療にかかる費用は治療法によって異なります。
- 初診・精液検査・尿検査:保険適用で5,000〜10,000円程度
- 薬物療法(イミプラミン等):保険適用で月額1,000〜3,000円程度
- 膀胱内精子回収+人工授精:保険適用の場合、1周期あたり数万円程度
- TESE(精巣精子採取術):保険適用で10〜20万円程度
- 顕微授精(ICSI):保険適用で1周期あたり15〜25万円程度
不妊治療は保険適用が拡大されており、条件を満たせば高額療養費制度の利用で自己負担を軽減できます。詳しくは加入している健康保険組合にお問い合わせください。
まとめ
逆行射精は、精液が膀胱に逆流してしまう射精障害で、自然妊娠を困難にする原因のひとつです。糖尿病や手術後の神経障害、薬剤の影響などが主な原因として挙げられます。
治療法としては薬物療法が第一選択となりますが、改善しない場合は膀胱内からの精子回収やTESEを経て、人工授精や体外受精による妊娠を目指すことが可能です。
逆行射精が疑われる場合は、早めに泌尿器科を受診して診断を受けることが大切です。パートナーと協力しながら、適切な治療と妊活を進めていきましょう。
参考:日本泌尿器科学会 / MSDマニュアル家庭版 / 東邦大学医療センター リプロダクションセンター
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