不妊治療で「ゴナドトロピン注射を自分で打ってください」と言われたとき、不安を感じる方は少なくありません。注射の経験がない方にとって、自分の体に針を刺すのはハードルが高いものです。しかし、自己注射は通院の負担を大幅に減らせる方法として、現在では多くの不妊治療クリニックで採用されています。正しい手順とちょっとしたコツを押さえれば、痛みも最小限に抑えられます。
この記事では、ゴナドトロピン注射の基本的な役割から自己注射の具体的なやり方、使われる薬の種類、副作用、痛みを軽減するテクニックまで詳しく解説します。自己注射への不安が少しでも和らぐよう、実際の手順に沿ってわかりやすくまとめています。

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ゴナドトロピン注射とは?不妊治療での役割
ゴナドトロピン注射は、卵胞の発育を促すために使われるホルモン製剤です。脳の下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)と同じ働きをする薬で、卵巣に直接作用して卵胞を育てます。クロミッドなどの経口排卵誘発剤では十分な効果が得られなかった場合や、体外受精・顕微授精で複数の卵子を確保したい場合に処方されることが多い薬です。
注射は月経開始から3〜5日目に開始し、排卵まで連日投与するケースが一般的です。投与期間はおよそ7〜14日間で、その間に超音波で卵胞の大きさを確認しながら薬の量を調整していきます。連日通院して注射を受けることは時間的・身体的な負担が大きいため、自宅で自分で注射を打つ「自己注射」が広く普及しています。
ゴナドトロピン療法が選ばれるケース
- 経口排卵誘発剤(クロミッドやレトロゾールなど)で卵胞が育たなかった場合
- 体外受精・顕微授精のために複数の卵胞を育てたい場合
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で排卵が起きにくい場合
- 原因不明の不妊で、より強い排卵誘発が必要な場合
- 人工授精の成功率を高めるために排卵誘発を併用する場合
自己注射で使われる薬の種類
ゴナドトロピン製剤にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。医師が患者の状態に合わせて処方します。自己注射の対象となる主な製剤を見ていきましょう。
FSH製剤(卵胞刺激ホルモン製剤)
ゴナールエフ皮下注ペン:遺伝子組換えFSH製剤で、ペン型の注射器に薬液が充填されています。ダイヤルで投与量を細かく調整でき、自己注射に適した設計になっています。150単位・300単位・450単位・900単位のラインナップがあり、治療の内容に応じて適切な容量のものが処方されます。使い方がシンプルで、初めて自己注射をする方でも扱いやすいのが大きなメリットです。
レコベル皮下注ペン:より新しいFSH製剤で、患者の体重やAMH値(卵巣予備能の指標)に応じた個別投与量の設定が可能です。体格や卵巣の反応に合わせた精密な投与ができるため、効率的な卵胞発育が期待できます。
HMG製剤(ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン)
HMGフェリングやHMGフジなどがあり、FSHとLHの両方を含んでいます。バイアル(瓶)タイプの製剤で、粉末の薬を溶解液で溶かしてからシリンジ(注射器)で吸い上げて注射するタイプです。ペン型に比べると手順がやや多くなりますが、LHも補えるため、LH分泌が不足している方に適しています。
GnRHアンタゴニスト
セトロタイドやガニレストなどの製剤で、排卵誘発中に早期排卵を防ぐ目的で使われます。これらも自己注射で投与するケースがあり、ゴナドトロピン製剤と並行して使用されます。排卵が予定より早く起きてしまうと採卵に間に合わなくなるため、重要な役割を果たしています。
2022年4月から体外受精・顕微授精が保険適用となり、自己注射も保険診療の一環として保険が使えるようになりました。保険適用の場合、ゴナールエフ皮下注ペン300単位で1本あたり約3,500円(3割負担)が目安です(詳細は医療機関にご確認ください)。
自己注射の具体的なやり方
自己注射を始める前に、医療機関で看護師から手技の指導を受けてください。ここでは一般的なペン型注射器(ゴナールエフ皮下注ペンなど)の手順を紹介します。クリニックによって細かい手順が異なる場合がありますので、実際には医療機関の指示を優先してください。
準備するもの
- ペン型注射器(処方された薬剤)
- 使い捨て注射針
- アルコール消毒綿
- 廃棄用の針捨てボックス(医療機関から支給されることが多い)
- 清潔なティッシュまたはガーゼ
アルコール消毒綿は医療機関で受け取れることもありますが、個包装のものは通販でも購入できます。手持ちが少なくなってきたら早めに補充しておくと安心です。
手順(ペン型注射器の場合)
- 手を石鹸でしっかり洗う:衛生管理が大切です。手指をしっかり洗ってから準備に入りましょう
- 薬液の確認:ペンのキャップを外し、薬液に濁りや異物がないか目視で確認します。異常があれば使用せず、薬剤師や看護師に相談してください
- 注射針の取り付け:新しい注射針の保護フィルムをはがし、ペン先にまっすぐ取り付けます。斜めに入らないよう注意しましょう
- 空打ち(エア抜き):針先を上に向けて軽くトントンと叩き、気泡を上部に集めます。ダイヤルを数単位分回してボタンを押し、針先から薬液の雫が出ることを確認します
- 投与量の設定:医師から指示された単位数にダイヤルを正確に合わせます。間違えないよう数字を2回確認しましょう
- 注射部位の消毒:おへそ周辺の下腹部(おへそから5cm以上離れた場所)をアルコール綿で円を描くように消毒します
- 注射:皮膚を軽くつまんで、つまんだ部分に対して垂直に針を刺します。ためらわず、スッと刺すのがコツです
- 薬液の注入:ボタンをゆっくり最後まで押して薬液を注入し、ダイヤルの表示が「0」になったことを確認します
- 針を抜く:ボタンを押したまま5〜10秒ほど待ち、ゆっくりまっすぐ針を抜きます。抜いた後に少し出血があればガーゼで軽く押さえてください
- 針の廃棄:使用済みの針はリキャップ(キャップをかぶせ直す)して専用の廃棄ボックスに入れます。一般ゴミには捨てないでください

バイアルタイプ(HMG製剤など)の場合
バイアルタイプは薬液を自分で溶解してからシリンジ(注射器)で吸い上げる手順が加わります。まず溶解液をシリンジで吸い上げてバイアルに注入し、ゆっくり回して粉末を溶かします。泡立てないように注意しながら溶解するのがコツです。完全に溶けたらバイアルを逆さにしてシリンジで薬液を吸い上げ、気泡がないことを確認してから注射します。手順は多いですが、慣れれば5分程度で完了できます。
注射部位と痛みを和らげるコツ
おすすめの注射部位
皮下注射の場合、以下の部位が推奨されています。
- 下腹部(おへその周辺):脂肪が比較的多く、痛みを感じにくい部位です。おへそから5cm以上離れた場所を選びましょう
- 太もも前面:下腹部が難しい場合の代替部位として使えます。膝から10cm以上、太ももの付け根から10cm以上離れた場所が適しています
同じ場所に繰り返し注射すると皮膚が硬くなったり、痛みを感じやすくなったりすることがあるため、少しずつ位置をずらしてローテーションしながら注射することが大切です。右と左を交互に使うのも効果的です。
痛みを軽減するテクニック
- 冷やしてから注射する:保冷剤で注射部位を10秒ほど冷やすと、皮膚の感覚が鈍くなり痛みを感じにくくなります。冷やしすぎると血管が収縮して薬液の吸収に影響する可能性があるため、短時間にとどめましょう
- リラックスする:緊張すると筋肉がこわばり、痛みを強く感じやすくなります。深呼吸を数回してから注射するのがおすすめです
- 素早く刺す:ゆっくり刺すよりも、思い切って素早くスッと刺す方が痛みは少なくなります。ためらうと余計に緊張するので、決めたらサッと刺しましょう
- 薬液を室温に戻す:冷蔵庫から出したばかりの冷たい薬液は刺激を感じやすいため、注射の30分前に冷蔵庫から出して室温に戻しておきます
- 注射後にもまない:皮下注射のあとは注射部位をもまないようにしましょう。もむと内出血しやすくなります
冷やすのに使うのは、お弁当用の小さな保冷剤で十分です。冷凍庫にいくつか常備しておくと、注射のたびに取り出して使えます。
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ゴナドトロピン注射の副作用
ゴナドトロピン注射には、いくつかの副作用が報告されています。気になる症状がある場合は、早めに主治医に相談してください。
比較的よくある副作用
- 注射部位の赤み・腫れ・かゆみ(局所反応)
- お腹の張りや不快感
- 頭痛やだるさ
- 気分の変動やイライラ
- 胸の張りや痛み
注意が必要な副作用
卵巣過剰刺激症候群(OHSS):ゴナドトロピン注射の重大な副作用として、卵巣が過剰に腫れるOHSSがあります。お腹が急に膨れる、体重が急激に増える(1日1kg以上)、息苦しい、尿の量が減るといった症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。特に若い方やPCOSの方、卵胞が多く育った方はリスクが高いとされています。
多胎妊娠:複数の卵胞が育つことで、双子以上の妊娠の可能性が高まることがあります。タイミング法や人工授精との併用では特に注意が必要で、卵胞が多く育ちすぎた場合は治療を中止することもあります。
自己注射の保険適用と費用の目安
2022年4月の不妊治療保険適用拡大により、ゴナドトロピン製剤を含む多くの治療薬が保険適用となりました。保険適用の場合、自己負担額は3割で済むため、以前に比べて経済的な負担は軽くなっています。
具体的な費用は使用する薬の種類や量、治療期間によって異なりますが、ゴナールエフ皮下注ペンの場合は1周期あたり数千円〜数万円程度が目安です。高額療養費制度を利用すれば、ひと月の自己負担額に上限が設けられるため、治療費が高額になった場合でも一定額以上は払い戻しを受けられます。加入している健康保険組合や協会けんぽに確認してみてください。

自己注射を続けるうえでの心構え
自己注射は、毎日同じ時間帯に打つことが推奨されています。生活のルーティンに組み込んでしまうと、だんだん負担に感じなくなってきます。例えば「毎晩お風呂上がりに打つ」「夕食後に打つ」など、タイミングを決めておくと忘れにくくなります。
打った日と時間、注射した部位をメモしておくと、ローテーションの管理にも役立ちます。通院日や体調を一緒に書ける妊活手帳を使っている方もいます。
パートナーに手伝ってもらうのも一つの方法です。薬の準備を手伝ってもらったり、横で見守ってもらったりするだけでも心強く感じるものです。治療は一人で頑張らなくてもよいということを忘れないでください。
自己注射でよくある不安とQ&A
Q. 注射が怖くてどうしても自分で打てません
A. 最初は多くの方が同じ不安を抱えています。クリニックによっては、最初の数回は看護師の見守りのもとで練習できる場合もあります。また、パートナーに打ってもらうことが可能なクリニックもあるため、主治医に相談してみてください。動画で手順を確認するのも不安軽減に役立ちます。
Q. 注射を打つ時間は決まっていますか?
A. 基本的には毎日同じ時間帯に打つのが望ましいとされています。ただし、1〜2時間程度のずれは問題ないことが多いです。具体的な時間帯については医師の指示に従ってください。特に体外受精の採卵前は、hCG注射の時間が採卵時刻に影響するため、指定された時間を厳密に守ることが重要です。
Q. 注射を1日忘れてしまったらどうすればいいですか?
A. 忘れたことに気づいたらすぐに医療機関に連絡してください。自己判断で翌日に2回分を打つことは避けましょう。治療への影響を医師に確認したうえで対応を決めてください。
Q. 注射した部分にしこりができました
A. 皮下注射の部位に小さなしこりができることがあります。多くの場合は数日で自然に消えますが、赤みや痛みが強い場合、どんどん大きくなる場合は受診することをおすすめします。注射部位を毎回少しずらすことで予防できます。
Q. 自己注射中に旅行しても大丈夫ですか?
A. 薬の保管方法(冷蔵が必要かどうか)を確認したうえで、携帯することは可能です。ペン型注射器は持ち運びしやすい設計になっています。飛行機に乗る場合は、医師の証明書(英語診断書)があると手荷物検査でスムーズです。使用済みの針も持ち帰る必要があるため、針捨てボックスも忘れずに持参しましょう。
冷蔵保管が必要な薬を持ち運ぶ場合は、保冷ポーチがあると移動中の温度を保ちやすくなります。保管温度の条件は薬によって違うので、事前に薬剤師に確認してください。
Q. 注射で内出血してしまいました
A. 皮下の細い血管を傷つけると内出血(青あざ)ができることがあります。自然に吸収されるため心配はいりません。注射後にもまずに軽く押さえるだけにすると、内出血を防ぎやすくなります。

まとめ
ゴナドトロピン注射の自己注射は、通院回数を減らしながら治療を続けるための有効な方法です。最初は不安に感じるかもしれませんが、医療機関での指導を受け、正しい手順で行えば安全に実施できます。ペン型注射器の普及により、以前に比べて格段に簡単になっています。
使用する薬の種類や注射の手技について不安がある場合は、遠慮なく主治医や看護師に質問してください。一つひとつの疑問をクリアにしていくことで、治療への不安も和らいでいきます。保険適用で費用面の負担も軽減されていますので、経済的な面も含めて、治療を前向きに進めていきましょう。

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