不妊治療で排卵誘発剤を使用する際に、注意しておきたいのが「OHSS(卵巣過剰刺激症候群)」です。排卵誘発に伴って卵巣が過剰に反応し、さまざまな症状を引き起こす状態で、軽症であれば自然に改善しますが、重症化すると入院が必要になることもあります。OHSSについて事前に知っておくことで、万が一のときに素早く対応でき、重症化を防ぐことにつながります。
この記事では、OHSSの症状の見分け方、予防法、自宅での対処法、入院が必要となるケースまで詳しく解説します。

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OHSSとは?
OHSS(Ovarian Hyperstimulation Syndrome:卵巣過剰刺激症候群)は、不妊治療で使用するゴナドトロピン製剤やhCG注射によって卵巣が過剰に刺激されて腫れ、体にさまざまな症状が出る状態です(厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル」参考)。
卵巣が腫大すると、血管透過性が亢進して血管内の水分が腹腔内に漏れ出し(腹水)、血液が濃縮されます。その結果、脱水や血栓症などの合併症につながることがあります。軽症は比較的多くの方に見られますが、入院が必要な重症例は適切な管理により減少傾向にあります。
OHSSが起こりやすい方の特徴
- 若年(35歳以下)の方:卵巣の反応性が高い
- やせ型(BMIが低い)の方
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方:卵胞が多数育ちやすい
- AMH値が高い方(卵巣予備能が高い)
- 過去にOHSSを経験したことがある方
- 卵胞が多数発育した方(超音波で15個以上の卵胞が確認された場合など)
- 血中エストラジオール値が高い方
OHSSの症状|重症度別チェックリスト
OHSSの症状は重症度によって異なります。自分の状態がどの段階にあるかを把握し、適切に対応することが大切です。
体重やお腹まわりの変化は感覚だと分かりにくいので、毎日決まった時間に数字で残しておくと前日との違いに気づきやすくなります。自宅に体重計がない方は、この機会に用意しておくのもひとつの方法です。
軽症
- お腹の軽い張り・違和感
- 軽い腹痛・下腹部の重さ
- 軽い吐き気
- 卵巣がやや腫大(5cm未満程度)
軽症の場合は自然に改善することがほとんどで、通院でのフォローが一般的です。
中等症
- お腹がはっきり膨れてくる(腹水の貯留)
- 体重増加(数日で2〜3kg以上)
- 嘔吐
- 下痢
- 尿量がやや減る
- 卵巣の腫大(5〜12cm程度)
重症
以下の症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診してください。夜間や休日でも、救急対応を依頼してください。
- 強い腹痛(動けないほどの痛み)
- 呼吸困難・息苦しさ(胸水の可能性)
- 急激な体重増加(1日1kg以上)
- 尿がほとんど出ない(乏尿)
- ふくらはぎの強い痛みや腫れ(血栓症の兆候)
- 激しい嘔吐で水分も取れない
重症のOHSSでは大量の腹水が溜まり、血管内の水分が減少して脱水状態になることがあります。さらに進行すると、急性腎不全、血栓症(肺塞栓症・深部静脈血栓症)、胸水(肺に水が溜まる)、肝機能障害など、生命に関わる合併症に発展するおそれがあります。

OHSSの予防法
OHSSは予防的な対策が重要です。医療機関では以下のような方法でリスクを軽減しています。
医療機関で行われる予防策
- 排卵誘発剤の量を慎重に調整:ゴナドトロピン製剤は少量から開始し、卵巣の反応を見ながら慎重に増量します。過剰な刺激を避けるために定期的なモニタリングが行われます
- 超音波モニタリング:定期的に超音波検査で卵胞の数と大きさを確認し、過剰な発育がないかチェックします。発育卵胞が多すぎる場合は治療を中止することもあります
- 排卵トリガーの変更:hCG注射の代わりにGnRHアゴニスト(ブセレリン点鼻薬など)を使用するとOHSSリスクが大幅に軽減されることがあります。GnRHアゴニストは体内のLHサージを一時的に誘発しますが、hCGのように長時間残らないため卵巣への刺激が穏やかです
- 全胚凍結(選択的凍結胚移植):新鮮胚移植を行わず、全ての胚を凍結して次の周期以降に移植する方法です。妊娠するとhCGが分泌されてOHSSが悪化するため、この方法で重症化を防ぐことができます。現在、多くのクリニックがOHSSリスクの高い患者に対して全胚凍結を選択しています
- カバサール(カベルゴリン)の投与:採卵後にOHSS予防薬として処方されることがあります。血管透過性の亢進を抑制する作用があります
- レトロゾール(アロマターゼ阻害剤)の使用:排卵誘発にレトロゾールを使うことで、ゴナドトロピンの使用量を減らしOHSSリスクを軽減する方法もあります
自分でできる予防・注意点
- 処方された通りに薬を使用し、自己判断で量を変えない
- 指示された通院スケジュールを守り、モニタリングを欠かさない
- 治療中は毎日体重を測定して記録しておく(急激な増加に気づきやすくなります)
- 水分をしっかり摂る(ただし、症状が出ている場合は水分摂取量について医師の指示に従う)
- 激しい運動を避ける(卵巣が腫大しているときに激しい動きをすると卵巣捻転のリスクがある)
- 腹囲を測定・記録しておくと、お腹の膨らみの変化に気づきやすくなります
腹囲を測るときは、体に沿わせやすい柔らかいメジャーがあると毎日の測定が続けやすくなります。手元にない方は用意しておくと安心です。
OHSSの対処法
軽症の場合(自宅療養)
軽症のOHSSは多くの場合、自然に改善します。自宅での療養中は以下の点に注意してください。
- 激しい運動を避け、安静に過ごす。ただし寝たきりにならず、適度に動くことも血栓予防に大切です
- 水分をこまめに摂取する(経口補水液やスポーツドリンクも可)
- 毎日体重と腹囲を測定して記録する
- 尿の量が減っていないか注意する(1日の尿量が500ml未満は要注意)
- タンパク質を多めに摂る食事を心がける
- 症状が悪化した場合はすぐに医療機関に連絡する
水分の摂り方については医師の指示が優先ですが、経口補水液を常温でストックしておくと飲みたいときにすぐ手が届きます。ドラッグストアのほかネット通販でもまとめ買いができます。
中等症〜重症の場合(入院管理)
中等症以上のOHSSでは入院管理が必要となることがあります。入院時に行われる主な処置には以下があります。
- 点滴による補液:脱水を改善するための輸液。アルブミン製剤が投与されることもあります
- 腹水穿刺:大量に溜まった腹水をお腹に針を刺して排出する処置。お腹の張りや呼吸の苦しさが劇的に改善することがあります
- 血栓予防:血液が濃縮して血栓ができやすくなるため、ヘパリンなどの抗凝固剤が使われることがあります。弾性ストッキングの着用も推奨されます
- 電解質の管理:血液検査で電解質バランスを確認し、異常があれば補正します
- 呼吸管理:胸水が溜まって呼吸困難がある場合は、胸水の穿刺排液や酸素投与が行われます

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入院の判断基準
以下のような状態が見られる場合、入院管理が検討されます。最終的な判断は医師が行いますが、目安として知っておくと安心です。
- 卵巣の腫大が著しい(超音波で12cm以上)
- 腹水が多量に認められる(超音波やCTで確認)
- 血液検査でヘマトクリット値が45%以上に上昇している(血液濃縮の指標)
- 尿量が減少している(1日500ml未満)
- 呼吸困難がある
- 自宅療養で改善しない、または悪化傾向にある
- 嘔吐がひどく水分や食事が摂れない
入院期間は症状の程度によって異なりますが、数日〜1〜2週間程度のケースが多いです。重症の場合はそれ以上の入院が必要になることもあります。退院後も外来で定期的なフォローアップが行われます。
OHSSと妊娠の関係
新鮮胚移植後に妊娠が成立すると、体内でhCGが分泌されるため、OHSSが悪化・遷延するリスクがあります。妊娠によるhCGの上昇がOHSSの改善を妨げ、症状が長引くことがあるのです。そのため、OHSSリスクが高い場合には全胚凍結が選択されることが多くなっています。
全胚凍結の場合、OHSSの症状は次の月経とともに改善に向かうことが一般的です。卵巣が回復した状態で凍結胚移植を行うため、移植時のコンディションも良好になるメリットがあります。
よくある質問Q&A
Q. OHSSになったら次の治療周期に影響しますか?
A. 通常は次の月経後にOHSSの症状は改善します。ただし、卵巣の回復を待ってから次の治療を開始することが多く、1〜2周期お休みするケースもあります。
お休みの期間もふくめて、体重や体調、受診日のメモを1冊にまとめておくと、次の周期で医師に伝えたいことを整理しやすくなります。妊活用のノートや手帳を使っている方もいます。
Q. OHSSの入院費用はどのくらいですか?
A. 入院費用は症状の程度や入院期間によって大きく異なります。保険適用の治療であれば保険が適用され、高額療養費制度も利用可能です。3割負担の場合、数日の入院で数万円〜十数万円程度が目安ですが、詳細は医療機関にご確認ください。
Q. OHSSは予防すれば完全に防げますか?
A. 予防策を講じることでリスクを大幅に軽減できますが、完全に防ぐことは難しい場合もあります。しかし、全胚凍結の普及やGnRHアゴニストトリガーの使用により、重症OHSSの発生率は以前に比べて大きく減少しています。
Q. 卵巣が腫れている間に気をつけることはありますか?
A. 卵巣が腫大している間は、激しい運動・急な体位変換・お腹への衝撃を避けてください。卵巣捻転(腫大した卵巣がねじれる)のリスクがあるためです。急に立ち上がったりせず、ゆっくりとした動作を心がけましょう。
まとめ
OHSSは不妊治療に伴うリスクの一つですが、早期発見と適切な対処によって重症化を防ぐことが可能です。治療中は体重の変化やお腹の張りに注意を払い、異変を感じたら速やかに医療機関に連絡することが大切です。
医療技術の進歩により、全胚凍結やGnRHアゴニストの使用など、OHSSのリスクを軽減する方法も確立されてきています。不安なことがあれば、主治医にしっかり相談してください。

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