体外受精で良好な胚を移植しているのに、なかなか妊娠に至らない。そんなとき考えられるのが「着床不全」です。良好な胚を複数回移植しても着床しない状態を指し、原因は一つではなく多岐にわたります。胚(受精卵)の問題だけでなく、子宮内膜の環境や免疫のバランス、タイミングのずれなど、さまざまな要因が絡み合っていることがあります。
着床不全の原因を特定するための検査技術は年々進歩しており、原因に応じた治療法も広がってきています。この記事では、着床不全の定義、考えられる原因、検査方法、治療法について詳しく解説します。

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着床不全とは
着床不全(着床障害)とは、体外受精・顕微授精において良好な胚を複数回移植したにもかかわらず、妊娠に至らない状態を指します。明確な定義は学会で統一されていませんが、一般的には以下のような場合に「着床不全」として精査が検討されます。
- 40歳未満の方が良好胚を3回以上移植しても妊娠しない場合
- 良好胚盤胞を2〜3回以上移植しても妊娠しない場合
- 累計移植胚数が4個以上で妊娠に至らない場合
着床がうまくいかない原因は、胚(受精卵)側の問題と子宮側の問題の両方が考えられます。実際には複数の要因が重なっていることも少なくありません。
診察の場では専門用語が一度に出てくるため、後から自分のペースで読み返したいという方も多いところです。不妊治療の流れや用語をまとめた書籍を1冊手元に置いておくと、次の受診で聞きたいことを整理しやすくなります。
着床不全の原因
1. 胚側の原因
着床不全の原因として多いのが胚の染色体異常です。見た目のグレードが良好な胚であっても、染色体に異常がある場合があります。年齢が上がるほど染色体異常の割合は高くなり、38歳頃になると約半数の胚に染色体異常が見られるとされています。35歳未満でも20〜30%程度の確率で染色体異常が起こるため、胚の質は見た目だけでは判断できないのが現実です。
2. 子宮内膜の問題
- 子宮内膜が薄い:内膜の厚さが7mm未満の場合、着床率が低下する傾向があります。内膜を厚くするためにエストロゲンの増量や、ビタミンE、バイアグラ膣錠などが試されることがあります
- 慢性子宮内膜炎:子宮内膜に慢性的な炎症がある状態で、着床を妨げることがあります。自覚症状がないことも多く、検査で初めて発見されるケースがあります。着床不全の患者の約30%に合併しているとの報告もあります
- 子宮内膜ポリープ:良性のポリープが着床を物理的に妨げることがあります。子宮鏡検査で発見され、摘出術で治療できます
- 着床の窓(implantation window)のずれ:子宮内膜が胚を受け入れられる期間(着床の窓)にずれがある可能性があります。通常は排卵後5〜7日目頃が着床の窓とされていますが、個人差があります
3. 子宮の形態異常
- 子宮筋腫(特に粘膜下筋腫は着床を妨げやすい)
- 子宮奇形(双角子宮・中隔子宮など)
- 子宮腔内癒着(アッシャーマン症候群):子宮内腔が癒着で狭くなっている状態
4. 免疫学的な要因
免疫のバランスが崩れると、胚を異物として拒絶してしまう可能性が指摘されています。Th1/Th2バランスの異常(Th1が優位になると拒絶方向に傾く)や、抗リン脂質抗体の存在が着床不全に関係することがあります。NK細胞(ナチュラルキラー細胞)の活性が高すぎる場合も着床に影響するとの報告があります。
5. 子宮内フローラの乱れ
子宮内の細菌バランスが乱れている場合、着床に影響を及ぼすことがあります。正常な子宮内フローラではラクトバチルス(乳酸桿菌)が90%以上を占めるのが理想的ですが、この割合が低下していると着床率の低下が報告されています。
6. 血液凝固の異常
血液が固まりやすい体質(血栓傾向)がある場合、子宮内膜の微小血流に影響して着床を妨げる可能性があります。プロテインS欠乏症、プロテインC欠乏症、第XII因子欠乏症などが関係することがあります。

着床不全の検査方法
1. 子宮鏡検査
子宮の中にカメラを入れて直接観察する検査です。子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、子宮腔内癒着などの形態異常を確認できます。慢性子宮内膜炎の兆候(内膜の発赤やポリポイド変化)も観察できることがあります。外来で短時間に行えることが多く、痛みも軽度です。
検査の種類が増えてくると、いつどの検査を受けたのかが分からなくなりがちです。受診日や体調のメモを1冊にまとめておくと、次の診察で医師に伝えたいことを整理しやすくなります。
2. ERA検査(子宮内膜着床能検査)
子宮内膜の着床に関連する248個の遺伝子の発現レベルを分析し、「着床の窓」のタイミングを特定する検査です。スペインのアイジェノミクス社が開発した検査で、子宮内膜の一部を採取してスペインに送って解析するため、結果が出るまでに約3週間かかります。費用は約13〜17万円前後(先進医療として保険診療と併用可能な施設もあり、別途薬剤代が必要)が目安です。
3. EMMA検査・ALICE検査
EMMA検査:子宮内膜の細菌バランス(子宮内フローラ)を調べる検査です。ラクトバチルスの占有率が高いほど着床率がよいとされています。結果に応じて乳酸菌製剤の投与などが検討されます。
ALICE検査:慢性子宮内膜炎の原因となる細菌(エンテロコッカス、ストレプトコッカスなど)を特定する検査です。原因菌が特定されれば、適切な抗生剤での治療が可能です。
ERA・EMMA・ALICEは同時に実施できるケースもあり、一度の検体採取で3つの検査を行う「TRIO検査」として提供しているクリニックもあります。
4. 免疫検査
血液検査で以下の項目を確認します。
- Th1/Th2比:免疫バランスの指標。Th1が優位だと胚を拒絶する方向に傾く可能性がある
- 抗リン脂質抗体:抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、β2GP1抗体など
- NK細胞活性:子宮内のNK細胞の活性が高すぎると着床を妨げる可能性
5. 子宮内膜組織検査(CD138染色)
子宮内膜の一部を採取し、CD138陽性の形質細胞の存在を確認する検査です。形質細胞が一定数以上検出されると慢性子宮内膜炎と診断されます。ALICE検査と組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
検査が重なると、結果表や同意書、領収書といった書類もどんどん増えていきます。A4サイズの書類ケースにまとめておくと、転院やセカンドオピニオンのときにそのまま持ち出せて便利です。
6. 着床前遺伝学的検査(PGT-A)
胚盤胞から一部の細胞を採取して染色体の数を調べる検査です。染色体の数的異常(異数性)がある胚を移植対象から除外することで、着床率の向上や流産率の低下が期待されます。ただし、PGT-Aには胚へのダメージリスクや、モザイク胚(正常細胞と異常細胞が混在)の判定の難しさなどの課題もあります。

着床不全の治療法
1. 子宮鏡手術
子宮鏡検査でポリープや粘膜下筋腫、癒着が見つかった場合は、子宮鏡下で摘出・剥離の手術を行います。日帰りまたは短期入院で行えることが多く、手術後の回復も比較的早いです。術後に着床率が改善するケースが報告されています。
2. 慢性子宮内膜炎の治療
ALICE検査やCD138染色で慢性子宮内膜炎が確認された場合、原因菌に応じた抗生剤治療を行います。ドキシサイクリンやメトロニダゾールなどが使用されることが多いです。治療後に再検査を行い、炎症の改善を確認してから胚移植に進みます。
3. 着床の窓の調整
ERA検査で着床の窓にずれがあると判明した場合、移植のタイミングを個別に調整することで着床率の改善が期待できます。例えば「着床の窓が12時間前にずれている」という結果であれば、通常より12時間早く胚移植を行います。
4. 免疫療法
Th1/Th2バランスの異常が認められた場合、タクロリムス(免疫抑制剤)の投与が検討されることがあります。ただし、妊娠中の使用についてはデータが限られているため、医師と十分に相談して判断してください。
5. 子宮内フローラの改善
EMMA検査でラクトバチルスの割合が低い場合、乳酸菌製剤(ラクトフローラやラクトバチルス製剤)の膣内投与やサプリメントで子宮内の細菌バランスを整えることが試みられています。
6. 抗凝固療法
抗リン脂質抗体が陽性の場合や血栓傾向がある場合、低用量アスピリンやヘパリンによる治療が検討されます。
7. PGT-Aの活用
染色体正常胚を選択して移植することで、着床率の向上と流産率の低下が期待できます。医師と十分に相談して決めることが大切です。
着床不全の治療は原因によって異なるため、まず検査で原因を特定することが重要です。自己判断でサプリメントや民間療法を試す前に、主治医と治療方針を話し合ってください。
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よくある質問Q&A
Q. ERA検査の費用はどのくらいですか?
A. ERA検査は先進医療として認められており、保険診療と併用できる施設もあります。費用は医療機関によって異なりますが約13〜17万円前後が目安です(別途薬剤代がかかります)。EMMA・ALICEとのセット(TRIO検査)で約18〜20万円前後の場合もあります。自治体によっては先進医療に対する助成制度が利用できる場合があるため、確認してみましょう。
Q. 着床不全の検査はいつ受けるべきですか?
A. 一般的には、良好胚を2〜3回移植しても妊娠しない場合に検討されます。ただし、早めに検査を受けたいという希望がある場合は主治医に相談してください。
Q. 着床不全は治りますか?
A. 原因によっては治療で改善できるケースが多くあります。ポリープの摘出や子宮内膜炎の治療、着床の窓の調整で妊娠に至ったという報告も少なくありません。原因の特定が改善への第一歩です。
Q. 自分でできることはありますか?
A. バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理、適度な運動など、基本的な健康管理が着床環境を整える土台になります。ただし、着床不全の直接的な原因に対しては医学的な治療が必要ですので、主治医と連携して進めてください。
睡眠については、寝室の明るさや物音が気になって眠りが浅くなるという声もよく聞きます。アイマスクや耳栓のような安眠グッズを使っている方もいるので、生活に合いそうなら試してみてください。
まとめ
着床不全は原因が多岐にわたるため、網羅的な検査で原因を特定し、それに応じた治療を行うことが解決への近道です。ERA検査や子宮鏡検査、EMMA・ALICE検査、免疫検査、PGT-Aなど、さまざまな検査が利用可能になっています。
何度も移植がうまくいかないとつらい気持ちになりますが、原因に対してアプローチすることで妊娠への道が開けることがあります。主治医と相談しながら、次のステップを一緒に考えていきましょう。

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